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バイヨラ
Bajola バイヨラ
カンパーニャ/イスキア島
ナポリ湾西部に浮かぶフレグレエ群島最大の島であるイスキア島。近年はスパ、リゾート地として有名ですが、元来島の中心産業はブドウ栽培で成り立っていました。紀元前 700 年にギリシャ人が上陸し、イタリア、スペイン、フランスとワイン用のブドウが伝播した起源と言われている土地でもあります。
バイヨラの当主であるフランチェスコ・イアコノはイスキアで生まれ育った。家庭の事情でイスキアを離れたのち、アルト・アディジェのワインの醸造学校で講師まで務めた経歴を持つ。イスキア島の中心産業がブドウ栽培から観光に変わり、人々の暮らしは一変...。畑は放棄され町は多くの観光客で溢れていった。小規模な農家は畑を手放し、残ったのは大規模ワイナリーばかり。彼曰く「今イスキアのワインは農薬と化学肥料に頼った栽培と、完全にコントロールされた醸造、大量生産を目的としたワインしか残っていない。」と言い切ります。幼少期に見たブドウ栽培・土地のワイン造りは壊滅したと。醸造学校で講師を務めていたフランチェスコ、いわば近代的なワイン造り、醸造を知り尽くした彼だからこそ、現代の醸造学の問題点と、伝統的なワイン造りの素晴ら しさを強く感じたと言います。「この完全に淘汰されてしまったイスキアのワイン造りを復活させたい、そしてイスキアに残る数少ない生産者にもう一度気付いてほしい」、強い意志を持ちイスキアに戻りブドウ栽培、ワイン醸造を開始しました。
バイヨラとは、フランチェスコの親戚から譲り受けた畑に付いた名。標高 200m ほどの急斜面の上に開けたテラス状0.7ha の畑。マルヴァジーア、ヴェルメンティーノ、ソーヴィニヨンブラン、ヴィオニエなど 2001 に植樹。畑では一切の農薬や化学肥料を使わずに、ビオディナミによる農法を徹底。現在硫黄は使用せず、銅も限りなく少量に留め、自然由来の調剤やエッセンスなどを代用して用いている。「畑に残る農薬や化学肥料の影響が無くなるまで、少なくとも 10 年はかかる」そう話すフランチェスコ。2010年より実験的にワイン造りを開始し、初めてのボトリングは2013より。
ただ、大きな問題が一つ...。バイヨラには醸造を行うための建物、カンティーナがなかった。普通に考えれば、新たに建設する必要があるのですが、フランチェスコの考えは少し違っていました。「土地の景観を変えてまでワインを造るのはおかしい、何よりも今ある環境を最大限に活用するべきだと思ったんだ。」、そこで畑の中心にあった古い貯水槽(農業用水を貯めるために作られた)を再利用。貯水槽に仕切りと蓋を作り大きなセメントタンクとして利用することに。つまり畑のど真ん中に醗酵・熟成を行うタンクを作ってしまったんです。フランチェスコ曰く、「極限まで完熟したブドウを房から落ちる寸前まで熟成しても、酸化の心配をせずにすぐに醗酵槽に入れることができる。空気との接触する時間も極僅か、そして地下に埋まったタンクは、温度も非常に安定しているし、酸化するリスクもとても少ない。」ということ。結果的に収穫から、ボトリングまですべて畑の真ん中で行い、途中大きなオリ引きや移し替えを行わないため、収穫からボトル詰めまでSO2を全く使用しないワイン造りを実現しています。
「醸造学校で教えてきた身でありながら、実際に自分が造りたいワインは、醸造学的にはタブーと言われてきたことを、ことごとく踏襲したものばかり...。矛盾していると思われるかもしれないけれど、今の醸造学が教えることはモダンな画一化されたワイン、毎年変わらない味わいを作るための技術であり、大資本・大量生産に必要な技術だ。しかし、今自分が表現しているのは自然というものと対峙して、ワインを造る事。年による変化も、バクテリアや酸化の影響も受け入れていくのは当然の事。」醸造についてはすさまじい知識と情報量を持つフランチェスコ、しかし彼自身が本当に造りたいワインに必要なのは、知識でも技術でもない。自然と対峙する意志と、状況を受け入れる柔軟性。イスキアという特殊な土地環境を生かした無理のない柔軟な価値観と醸造哲学、イスキアのイメージを今後覆していくであろう、楽しみある造り手です。(輸入元資料より)