Il Cancelliere イル・カンチェッリエレ
《 輸入元案内より 》
2008年に初めてカンティーナ・ジャルディーノを訪ねた時、彼らがブドウを買っている農家を訪ねて畑を見せるよとアントニオ。イル・カンチェッリエレに連れて行ってくれました。着いたのはお昼過ぎで、家に入ると20人くらいの親戚縁者が長テーブルに座って昼食を食べていました。この日は収穫の真っ最中、奇しくもカンティーナ・ジャルディーノのお手頃アリアーニコ、レ・フォーレ用のブドウを収穫していました。しかし訪ねた日は11月13日、全イタリア的にブドウの収穫は終えている時期なのにも関わらず…それも南で。アントニオに聞いてみると、アリアーニコというブドウは、ハンギングタイム(ブドウの実が生り始めてから完熟するまでの期間)があらゆるブドウ品種の中で最も長い品種なのだそうです。
長テーブルでの大人数の食卓は、南イタリアのブドウ栽培農家に抱いていたイメージそのままの光景で、非常に印象深いものがありました。我々珍客のためにも無理やり席を作ってくれ、自己紹介もそこそこに、あれ食べろ、これも美味いぞ攻撃。食べながら「ほれオラの手見てみろ、これがほんまもんの農民の手だぁ。ガハハ(皆さんなりに訛らせてください)」と、皺に土とブドウの色素が染み込んだ手を見せるソッコルソ。明るく(そして騒がしく!)、温かく、優しい雰囲気がこの食卓からだけでも感じられ、席に混ぜてもらうことで彼らの幸せを分けてもらったような気分を味わいました。
イル・カンチェッリエレは家族だけで営まれているワイナリーで、1800年代半ばからこの土地でブドウ栽培を中心とした農業、そしてワイン醸造を行ってきました。この地域の他の農家と同様、自家消費と年来の顧客の為に(大瓶での計り売り用)のみワインを仕込み、それ以外のブドウは仲買人や、大手ワイナリーに売却をしていました。
アントニオの助言、後押しもあり、2005年のブドウからボトリングしてのワインの商業化を決意します。自家消費用と計り売り用以外に、多めにワインを生産し、それをボトリングしたものが、彼らが造るアリアーニコのスタンダードライン、ジョヴィアーノとなります。
それに対して、彼らの所有する中で最も標高の高い区画のブドウ(標高が高いとブドウが熟すのも遅くなります)は、収穫直前に訪れた悪天候のため、収穫できないままのうちに、売り先からキャンセルされてしまいます。一度は彼ら自身もこの区画からの収穫を諦めてしまいます。
2005年は全イタリア的に雨がちな年で、農作業的にも難しい年ではあったのですが、実際の品質以上にネガティブな風評のほうが先行してしまい、買いブドウの需要が減り、結果、ブドウの取引価格も暴落してしまった年でした。ですが、11月2日以降の好天により、ブドウは再び凝縮し、長雨に耐え抜いたブドウは品質的にも絶望するものでなく、むしろ良いということに気付いた彼ら。売り先はないが、品質の良いブドウをそのまま捨て置くのは農民としての良心が痛み、自ら醸造することに。収穫し、急遽大樽を購入、そこで24ヶ月熟成。瓶内でさらに1年以上熟成させてからリリースとなったのが、タウラージ・ネーロ・ネ2005です。そしてボトリングせずに一部取って置いたものを古バリックに入れ、さらに1年寝かせてからボトリングしたものが、タウラージ・リゼルヴァになります。
話を訪問時に戻します。"マーケティング担当"だという末娘ナディアの帰宅に合わせて試飲を始めます。"日本のインポーター"なる者が相手のためか、ちょっと緊張気味のナディア「吐器を用意したほうがいいのかしら?ワインだけだと酔っ払っちゃうだろうから、グリッシーニとチーズ用意する?」とあたふた。いざワインの試飲を始めると、何とはなしに静まり返る場、じーっとコメントを待つナディア、エンリコ(ソッコルソの長男で農学士で父と共に畑担当)、その奥さんのリータ。あの数秒間の重苦しさは人生の中でも最大級でした。
そして、本当に率直にそう思ったので、「美味しい!」と発すると、ほっとする彼ら。料理に例えるなら、野心的、前衛的、クリエイティブな、だけど限られた調理器具で具現化した、"素材とテクニックの絶妙なコラボ" とも言える "クールな" お皿がカンティーナ・ジャルディーノのワイン。全て自家製の丹精込めて作った素材、昔ながらのレシピで、素朴だが丁寧に作られた "温かい" 料理がイル カンチェッリエレのワインという印象でしょうか。
ともすれば誤解していたアリアーニコというブドウ、タウラージのゾーンの持つ大きな潜在性と、"ワイン(の個性)は人(の個性)である" ということを皆さんにも知って頂きたいと考え、彼らとの取引を始めることにしました。
2010年のヴィッラ・ファヴォリータに、他のグループに属し、他の場所で行われていたサロンに参加していたパオロ ヴォドピーヴェッツ(今回来日します)が遊びに来て、ナディア、クラウディオ、リータ、パオロと食卓を囲むことになりました。自己紹介代わりにとワインを持ってくるパオロ、そのワインを飲んでその美味しさに悶絶する3人は、その後パオロを質問攻め。パオロがいかにリスクと覚悟を背負ってブドウを栽培し、ワインを醸しているのかを聞き感動する彼ら。家族みんなに飲ませたいからと、その場でパオロにワインを注文していました。
皆さんはあまり不思議に思われないかもしれませんが、造り手が他の造り手のワインをその人の面前で手放しで絶賛し、複数本を購入するということは、なかなかないことなのです。いかに彼らが謙虚で、知ること、感じることに飢えているかを象徴するエピソードであるように思います。純で素直で正直で、南らしい明るさを持つ彼らと彼らのワイン、皆さんも是非カンティーナ・ジャルディーノとの違いを楽しんでみてください!