Fillipe Jumbon フィリップ・ジャンボン
「自然派ワインが大好きでたまらない」そんな熱い想いをほとばしらせ、情熱的に話し続ける姿が印象的なフィリップ ジャンボン氏。時に頑固なまでの真剣さでワイン造りに向き合う彼は、自然派の生産者仲間から愛着をこめて「自然派バカ」と呼ばれることも。話題がワインのこととなると友人たちもあきれるくらいヒートアップするジャンボン氏は、ボジョレーの地で、自ら理想とするワイン造りに日々取り組んでいます。
ジャンボンはかつて、スイスの名門レストラン「ジラルデ」にてソムリエの職に就いていました。そこでマルゴーやラフィットといったグランヴァンを口にし、それらが最高のワインであると考えていました。しかしながら、ある時に口にしたグラムノンのワインをきっかけに、「自然派ワイン」の素晴らしさに心打たれたといいます。その後リヨンの小さなビストロに移り、ダール エ リボをはじめとする様々な自然派ワインと深く接するようになるなかで、彼自身も「このようなワインを造ってみたい」という想いが強くなっていきました。
ついに1997年にボジョレー地区にて南向き斜面の樹齢の高い畑を手に入れ、自身のワインを造り始めたのです。当初、手に入れた畑は僅か1haで、畑仕事や醸造に必要な器具を満足に用意することもできず、醸造所やセラーですら自宅の物置を改造してなんとかワインを造っていたという状況でした。
そんな彼も徐々に畑を買い足し、引越しを経て、満足いくワインを造るための環境を整えてきました。現在、彼のセラーにはリリースを待つ(実験的に造られているキュヴェを含む)様々なワインが眠っています。「どんなワインに育つかは、ワインだけが知っている。ある日ある時までに決まった味わいのワインを造ることはできないよ。」そう言い放つまでに、十分な畑での仕事と丁寧な醸造を行っているのは言うまでもありません。
フィリップ・ジャンボンと言えば、危機的なほど収穫量に恵まれない上に、熟成にかける期間も途方もなく長いため、いつワインがリリースされるか(本人ですら!?)わからないという、決して常識の枠組みに収まらない孤高の自然派ワイン生産者。というのも、人間の都合でワインの完成を決めるのではなく、あくまでワインそのものと自然環境がそのタイミングを決めるというスタイルを信望しているためで、さながらオリンピック並の間隔でしか彼自身が栽培・醸造を担当したワインを体験することがかないません。
そんなワイン造りをしていたら、もちろん生活的には苦しいはず…しかし家族の暖かいバックアップと本人の無邪気な性格で、苦難を乗り越えながら変わらず「攻めた」ワイン造りを続けています。かつてはカルトな人気を誇るラディカルな造り手として認識されていたフィリップ ジャンボンですが、今や多くの自然派ワイン生産者から尊敬を集めるメンター(師)のような存在であり、精神的支柱ともなっています。
ワイン造りにおけるあらゆる局面で、最も「ハイリスク」で「ハイリターン」な選択をし続けるフィリップ・ジャンボン。それもこれも、彼自身が自ら手がけたブドウの可能性をとことんまで信じているからこそできることです。
ボトルの中に詰まっているのは100%ブドウだけ。そんな彼の熟成中のワインは、ある時は荒々しく野性的な姿を見せ、ある時は静寂に満ちた池の水面のように沈黙し、またある時には無邪気な子供たちの笑顔のようにに明るく、また時には荘厳なオーケストラの奏でる交響曲のような躍動感に満ちています。そして、これらの様々な表情が調和し、ひとつの均衡点に達する瞬間までただその時を待ち続けます。
かつては熟成中のワインが微生物の影響で取り去ることができない不快な風味に支配されてしまった事や、揮発酸が高まり限りなくヴィネガーに近づいてしまった事で、頭を抱えたこともありました。常識的に考えれば、これらのワインたちが復活する事は考えられず、多くの生産者たちは、その徴候を感知した時点で亜硫酸の添加など処置を行うか、場合によっては廃棄することになります。しかし、自身のブドウと自然酵母の可能性を強く信じていたフィリップ ジャンボンは、常識では復活し得ないはずのワインたちを見守り続け、ついには極上のバランスを備えた素晴らしいワインに進化していく様を目の当たりしました。
奇跡としか言いようのないこの一連の出来事以来、フィリップ ジャンボンは、彼の人生そのものと言えるブドウたちを信じ、ワインを信じ、畑を信じ、自然を信じて、さらなる奇跡を生み出し続けています。(輸入元案内より)