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ケヴィン・デコンブ
Kevin Descombes ケヴィン・デコンブ
マコンからリヨンへ南下する途中、右手に大小起伏のある山々の連なる光景が一面に広がる。ボジョレーの街ベルヴィルから西へ6kmほど緩やかに登りきったところに、クリュ・ボジョレーのひとつであるモルゴンの産地ヴィリエ・モルゴン村がある。その村をさらに東へ登ったシルーブル村との境にケヴィン・デコンブのドメーヌがある。畑の総面積は4haで AOC はモルゴンとボジョレー。畑の標高は500mとモルゴンの中では比較的高く傾斜にも恵まれている。さらに南に面している分、たいへん日当たりが良い。気候はコンチネンタルで、夏はたいへん暑く冬はたいへん寒い。東西南北に広がる丘陵地帯によって、冷たい風や多量の雨からブドウ畑が守られている。
オーナーのケヴィン・デコンブは、ジョルジュ・デコンブを父親に持つ生粋のヴィニョロン一家で育った。幼少の頃からワインの世界に触れていたケヴィンは、10歳の時にはすでに父親の後を継いでヴィニョロンになることを決めていた。2008年にベルヴィルの農業高校で2年間ブドウ栽培と醸造を学び、残りの2年間は1週間学校でワインの勉強、そして1週間は父親のドメーヌで研修という経緯を経て、2012 年 20 歳の時に父デコンブの畑(ACボジョレーとAC モルゴン)の4haを譲り受け、自らのドメーヌをスタートする。また同年にドメーヌと並行して、父ジョルジュと一緒にネゴシアンを立ち上げる。
ジョルジュ・デコンブのエスプリを忠実に引き継ぐケヴィン・デコンブ。現在、彼は4haの自社畑(モルゴン3ha、ボジョレー1ha)と父ジョルジュ・デコンブの畑のトラクター作業を全て管理している。かのフレデリック・コサールも「彼は若いがポテンシャルが高く将来性がある!」と大きな期待を寄せており、2014年からコサールのコンサルティングの下、タッグを組んでネゴスのヌーヴォーを手掛けている。畑はドメーヌもネゴスも100%ビオロジック。畑作業は特に土起こし、そして醸造は低温マセラシオンにこだわる。彼のモットーは「環境に配慮しながら、丁寧な仕事を行うこと」で、ブドウの栽培から醸造まで、環境に配慮しつつひとつひとつの細かい作業を丁寧にこなすことで、美味しいワインが生まれると信じている。また、好奇心旺なケヴィンは、将来的にはボジョレーのヴァンナチュールにおいて、まだまだ未開拓のサンタムールやジュリエナでドメーヌのワインを仕込みたいと考えている。
通称 Keke(ケケ)の愛称で親しまれているケヴィン・デコンブ。人懐っこい性格もあって、モルゴン村では誰にも好かれる人気者だ。
私が初めて彼を知ったのは、フレデリック・コサールからの紹介。ヴァンクゥールが毎年続けているフレデリック・コサールのボジョレーヌーヴォーの仕込みを、若手育成も兼ねてぜひケヴィンに任せたいというフレッドからの提案があった時だった。フレッド自身、若手生産者を滅多に称賛することがないが、この時のケヴィンに対する押し方は別格だった。「フレッドがこれだけプッシュする生産者って一体どのような人物なんだろう…」私自身の期待は大いに膨らんだ。
だが、実際にケヴィンに会った印象は、腰で履いたジーンズに金のネックレスと、何ともビニョロンらしくないマイルドヤンキー風の若者…。年は20歳前半ということもあって、いきなりハグするところは、今風の若者と言えばそうだが、期待していたイメージと大分かけ離れていた…。父親のジョルジュ・デコンブは偉大な作り手ということを知っている故、余計に変なギャップを感じてしまった。「チャラすぎる…彼は本当に大丈夫か…!?」これが彼に対する初めての印象だった。
それから数ヶ月後、不安の晴れぬまま、今度は畑を案内してもらうために再びアポを取った。
デコンブのカーヴに到着すると、ケヴィンはちょうどトラクターで父親の畑の土起こしをしている最中だった。前回とは打って変わり、土で汚れた T-シャツに泥まみれのシューズ、汗と埃まみれの額…。土起こしに没頭しているため、私の姿に全く気づかない…。作業中の彼はとにかくエネルギッシュで輝いていた。しばらくして、私の姿を認めるやすぐに駆け寄り、またいつものように人懐っこくハグをしてきたが、この時のケヴィンには前回のチャラい様子は全くなく、ヴィニョロンのオーラが全開に溢れ出ていた。
父親のジョルジュを尊敬し、幼いころからすでに父親のようなヴィニョロンになると決めていたケヴィン。デコンブ家の素晴らしいところは、子供が成人すると同時にそれぞれ独立するシステムをとっていて、ケヴィンも20歳になってすぐに、父デコンブの畑(ACボジョレーとACモルゴン)の4haを譲り受け、自らのドメーヌをスタートさせている。フレッドも、デコンブ家の教育方針に共鳴を受ける一人で、同年代の多くの若者がまだ親のすねをかじって生活している中、ケヴィンが早々と親離れし、独立を果たしたことを大いに評価している。また、ケヴィンは若い頃から父親のワインを始め、シャソルネイやガヌヴァ、ラングロールなど完成度の高いワインに常に接する機会に恵まれていたこともあり、ワインの味覚に対する潜在的なセンスは計り知れない。現に初めてにしてフレッドの味わいを目指し表現した2014年ヌーヴォーを見てもわかるように、卓越した味覚のセンスがあり、はたまたそれがレベルの高い醸造へとつながっている。将来を担う若手ヴィニョロンを育成したいと考えているフレッ ドにとって、エネルギッシュでセンスのあるケヴィンは、まさに磨けば光るダイヤの原石のような存在なのだ。
ワインのスタイルについては現在模索中で、父親の影響を最も受けているが、2014年からフレッドとタッグを組んで以来、よりエレガントな方向に傾いている。「美味しいワインは健全なブドウから」という父親の教えに従い、しっかり完熟したきれいなブドウで仕込むというベースは変わらないが、現在は、低温で抽出をより柔らかくしピュアな果実味だけを取り出すような醸造を試みている。
将来的にはモルゴン以外のクリュボジョレーも仕込んでみたいと語るケヴィン。その候補として、特にサンタムールとジュリエナを挙げている。ヴァンナチュールのヴィニョロンがいないという理由もあるが、彼にはそれよりも「サンタムールとジュリエナは美味しいワインができない」という一般的な偏見を打破したいという強い思いがある。「成功するかしないかは別として、とにかくドメーヌでチャレンジしてみたい!」と彼は熱く語る。ケヴィン自身はまだワイン造りの確固たる方向性は決まっていないが、その分大きな伸びしろがある。これからの成長が本当に楽しみなヴィニョロンだ。