ロワール地方のブロワ市から南に10kmほど南下した場所に、「クロ・デュ・テュエ・ブッフ」、ティエリ・ピュズラのドメーヌがある。彼がネゴシアンで買うブドウは、西はヴヴレーから南はシェール川を越えたテニエール、アンジェ村までの半径 50 km 範囲内に構える優良ドメーヌから仕入れ、各畑ごとに独立したキュヴェを作り上げる。ネゴシアン畑の大部分は緩やかな起伏のある丘に点在し、気候はそれぞれのミクロクリマが存在するが、主にロワール川とシェール川の影響を受ける。一年中穏やかで夏は暖かく、秋から冬春にかけては川と地上の温暖差で朝夕はしばしば深い霧に覆われる。
昨今は自然派ワインの寵児として注目を浴びるティエリ・ピュズラ。1994 年、父の畑を兄のジャン・マリーと共に継いで、ドメーヌ「クロ・デュ・テュエ・ブッフ」を起ち上げる以前は、ボルドーで 2 年、マコンで 1 年醸造の学校に通い、再びボルドーに戻り、サンテミリオン地区のプルミエ・グランクリュ「クロ・フルテ」で 1 年の研修、その後カナダでコマーシャルの勉強をし、帰国後は 4 年間、南仏バンドールの「ドメーヌ・ド・ラ・トゥール・デュ・ボン」での研修と、多岐にわたる修行経験がある。1999 年にネゴシアン「ティエリ・ピュズラ」を起ち上げ、以来テロワールの反映するワイン作りの可能性を追い求めている。
現在、ドメーヌは兄のジャン・マリーとティエリ・ピュズラ、そしてネゴシアンはティエリ・ピュズラが醸造を管理している。(正社員2名と季節労働者数人が常時手伝いに入る)彼のネゴシアンで買うブドウは、赤はピノノワール、ガメイ、コー、ピノドニス、白はソービニヨンブラン、ロモロンタン、シャルドネ、ムニュピノ、シュナンブランである。仕込みは状況に応じてだが、全て「クロ・デュ・テュエ・ブッフ」の仕込みと同じ。ティエリがブドウを収穫し醸造する。彼の買いブドウの選び方は、ただビオロジックな作りというのが決めてではなく、これから自然派ワインの作り手として成長しそうな良質なドメーヌを見極めて選んでいる。売り手側もティエリにブドウを選んでもらったということがきっかけでブレイクすることもあり、お互いが持ちつ持たれつの 良い関係が出来上がっている。
ティエリ・ピュズラといえば、日本でもフランスでも名うての作り手としてすでに名が知られているスーパーヴィニョロン。主要なワイン雑誌のほとんどが彼を取材し尽くしているので、もう多くのことを語る必要はないかもしれない。
・・・いや、ティエリのことを深く知りたいのだったら、弊社の池谷の方が専門家かも。なぜならティエリと彼はもう 3 年来の付合いで、取引先関係という色が全くなくむしろ親友同士の関係を築いているからだ。(ちなみに今回のスペシャルキュヴェ「ヴァンクゥール」も、そんな友人関係の中から生まれた逸品だ。)
1999年、ネゴシアンを開始して以来、ティエリが「ネゴシアン」としてひたすらこだわってきたことは「それぞれの買いブドウの特徴をワインに活かすこと」、すなわちテロワールをワインに反映させることだった。彼が自然派ワインに行き着いたのも、結局は、ビオ農法や自然酵母、ノンフィルター、SO2添加抑制が、今のところテロワールをワインに反映させる一番の方法だと思っているからで、今後テロワールにとってより良い方法があればどんどん取り入れていきたいという前向きな姿勢は変えていない。
ドメーヌ「クロ・デュ・テュエ・ブッフ」での忙しい仕事の合間を縫って、取引ブドウ生産者の畑に通い、彼らとの綿密な話し合いは欠かせない。なるべくブドウ生産者の自主性を大事にし、自らの要望は最小限に抑えているという。「自分の選んだブドウ生産者は皆志が高く、いちいち口を出さなくても、彼らは自分が何をすべきかを知っている。彼らも現に自分で素晴らしいワインを作っている」と絶大な信頼をよせている。ただ、収穫だけは別で、ティエリ自らが収穫者を引連れ一気に刈上げる。ブドウの収穫期と選果レベルはドメーヌによって個人差があるので、いつも仕事慣れしている収穫者の方が意思を反映させやすいとのことからだ。
買いブドウの醸造は全てクロ・デュ・テュエ・ブッフで行われ、ティエリが先頭になって指揮を執る。仕込み方はもちろんドメーヌと同様の方法だ。仕込みの期間や熟成方法については、個々のブドウの特徴に合わせて臨機応変に調整する。彼のテロワールへのこだわりの一例として、先の取材で面白い本音を聞いたのだが、彼は、作るワインが「やっぱりティエリのワイン!」と賞賛を受けるよりも、「各々が個性あるワイン!」と評価される方が嬉しいそうだ。「買いブドウで、ドメーヌ(クロ・デュ・テュエ・ブッフ)と同じような個性のワインを作っても全く面白くない。ティエリブランドを作るためにわざわざネゴシアンをやった訳ではないからね。テロワールが違うのだから、やはりできたブドウの個性を尊重したいし、できるだけその土地のものを引き出してあげたい」と熱く語るティエリ。
・・・熱く語ると言っても、すでにワインは取材中どんどん注がれているし・・・彼の趣味を聞くと「何ヤボなこと聞いているんだ!ワインを飲むことに決まっているだろ!?」とまたワインが注がれる。このまま宴会モードに突入する前に、最後またベタな質問で「どうしてビオ農法を選んだのか?」を彼に聞いてみた。彼は笑いながら「もちろんテロワールをワインに反映させるためでもあるが、その前に、俺が生きている時間なんて、地球の一生から考えたら鼻息程度だろ!?仮に今はクロ・デュ・テュエ・ブッフの土地が自分たちのものであっても、死んだら誰のものになるか分からない。俺たちの畑といっても実は地球からほんの一瞬借りているだけなんだ。その長い時間をかけて地球が培ってきた土壌を一時的に借りている俺が壊す権利など全くない!それだけだ」ととてもシンプルだが深みのある答えで締めくくった。
(輸入元資料より)