赤・750ml
ブルネッロ(サンジョヴェーゼ)
海抜190-400mに広がる日照豊かな南西〜西向き斜面の畑から、ブルネッロ用に区画を厳選。粒の小さな熟した果実のジューシーなアロマに、スモークやスパイスのニュアンスが深みを添える。細かなタンニンに包まれた艶のある果実。エキスに満ちた端正かつ享楽的な味わいには、この作品に続くクリュ・ブルネッロへの期待がかきたてられる。
☆☆ 生産者紹介 ☆☆
【カステルヌオーヴォ・デッラバーテの先駆者】
創業は1975年。ブルネッロの生産拡大に火をつけたバンフィの設立や、D.O.C.G.昇格以前のことである。畑と醸造所は、アペラシオンの最南端となるカステルヌオーヴォ・デッラバーテの丘陵にある。元々ロレート・エ・サン・ピオと呼ばれていたこの農園を弁護士のガブリエーレ・マストロヤンニが取得した当時、森と牧草地が広がるのみで、ブドウは植えられていなかった。土壌は痩せている上、傾斜が急で崩れやすく、耕作に不向きとされていたからだ。 しかし、南部特有の温暖な気候に加え、南西から南に開けた斜面は日照が豊富。夏は雨が降らず、日中の気温は時には40度にも達するが、南に迫る標高1700m級のアミアータ山から常に涼しい風が吹くため、昼夜の寒暖差は15度を超える。さらに、アミアータ山は嵐や雹に対する防壁ともなる。 マストロヤンニ氏は、ここが優れたブルネッロを生む土地であることをすぐに確信し、畑を拓いてブドウの植樹を行った。
このテロワールが育むブドウから余計なものを加えることなくワインを造るために、発酵にはニュートラルなコンクリートタンクを、熟成には大樽を用いることは最初から決まっていた。ブルネッロの伝統に重きを置くマストロヤンニの作品は、初期のヴィンテージからこの地の上質なサンジョヴェーゼに特有の素晴らしいアロマを呈していたという。
【誕生秘話】
マストロヤンニの要となるアンドレア・マケッティは、1992年に栽培・醸造責任者として招かれた。彼はモンタルチーノを熟知した地元出身の醸造家であり、イタリア最高のエノロゴの一人エツィオ・リヴェッラの下で、長らくバンフィの醸造に携わっていた。しかし、当時の最新鋭の技術と設備を導入したバンフィの手法は非常にモダン。それに違和感を抱いた彼は、より自然なワイン造りができる場所を求め、マストロヤンニにやってきた。
着任当初のことをアンドレアは振り返る。カンティーナと呼ぶには簡素な小屋で醸造が行われ、夏場に気温が40度にも達する場所でワインが保管されることもあったという。それまでとは全く異なる環境に身を置くことになった彼が最も驚いたのは、熟成中のワインを試飲していた時のこと。『グアルティエーロ・マルケージ』と書かれた樽からのワインの群を抜くおいしさに衝撃を受けた。それはイタリア料理界の重鎮ためにたまたま取り置かれていたものだったが、そうでなければ通常のブルネッロにブレンドされていたはずだった。アンドレアはそのワインを生み出した区画を探し出し、今後は単独で瓶詰することを心に決めた。その区画こそが、スキエーナ・ダジノ。マストロヤンニの最上クリュは、彼の審美眼により見出されたのである。
【不変の本質】
既に地元では優れた生産者として認識されていたマストロヤンニだが、アンドレアの手腕はそのクオリティを更に引き上げた。彼が最も重要視したのは畑である。生態系を整え、病害が起こりにくい環境にすることで、人の手を加えずとも質の高いブドウを得られる環境づくりに注力した。醸造環境も少しずつ改善していったが十分ではなく、選果台もなかったため、最終的なブドウの選別は畑でしかできなかった。 それが一変したのは、グルッポ・イリーの所有になった2008年。この大資本が入ることで、ワインが全くの別物になってしまうのではと多くの人が危惧したが、むしろイリーはマストロヤンニの本質が変わらないことを求めていた。アンドレアに全幅の信頼を置く彼らのスタンスは、単純明快。「資金は出すが、干渉はしない」。アンドレア念願の選果台の導入はじめ、清潔で機能的な醸造施設など、大規模な設備投資がイリーの手により行われた。このハード面の充実は一層のクオリティ向上につながり、ワインはよりクリーンで洗練された味わいを得た。
マストロヤンニの伝統とアイデンティティを見事に守り抜き、更なる躍進の機会をもたらしたフランチェスコ・イリーは現在、マストロヤンニの会長職にある。しかし、実際の運営はアンドレアに一任し、その方針に一切口を挟むことはない。 フランチェスコはそんな自分のことを、”presidente(『会長』)”にひっかけて、”presi-niente(『存在感がない』という意味の造語)”と誇らしげに呼んでいる。
【テクニカルデータ】
土壌 : 主に石が多く痩せたシルト質、粘土質土壌。
栽培方法 : 有機農法を基本としたロッタ・インテグラータ。環境を尊重し、化学薬品の使用を抑えている。収量制限も厳しく行われ、質の悪いブドウはグリーンハーヴェストで除去し、収穫時には、熟していないブドウや過熟したブドウは畑で選果され、枝から切り落とされる。2008年から選果台が導入され、収穫後、発酵を行う前に6-8人で畑の選果で見落とした欠点のあるブドウを房ごと取り除いている。
醸造方法 : コンクリートタンクとトロンコニックで自然酵母にて発酵。アルコール発酵は1週間。3-5週間マセラシオンを行う。熟成には区画により、1600L、3300L、5400Lの大樽を使い分ける。