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ル・プティ・ドメーヌ・ド・ジミオ
Le Petit Domaine de Gimios ル・プティ・ドメーヌ・ド・ジミオ
1995 年にブドウ畑を購入して以来、アン・マリー・ラヴェイスはブドウの古樹に息吹を吹き返すがごとくビオディナミ農法を実践し続けている。彼女のヴィオディナミ歴は古く、遡れば30年前の、彼女が以前まで続けていたフルーツ菜園農家の時代までたどることができるという。残念ながら、農場は 1993 年の山火事により全焼してしまったが、これを転機に彼女はもともと興味を抱いていたワイン作りに人生を注ぐこととなる。
現在はアン・マリー・ラヴェイスと息子のピエールで 4.5ha の畑を管理している。赤白共に品種はサンソー、アリカント、テレット、ミュスカ・プティ・グレンなど土着のもののみで、ほとんどのブドウの樹が 100 年を超えている。彼女のブドウ畑のまわりには隣接する畑が無く、ビオディナミを実践するには格好のシチュエーションである。フルーツ菜園農家だった経験を生かし、ブドウの樹ひとつひとつの観察には特に注意を払う。ブドウ畑に撒く散布剤は、ビオディナミゼの時に必要な調剤のみ!と彼女の徹底した自然有機農法は、参考のため遠方から視察に訪れるワイナリーも後を絶たない。収穫は 1 世紀を経たブドウの樹から搾り出されるブドウのエキスは微量で収量調整の必要が無く、毎年 10〜14hl/ha の収穫量で収まる。ブルゴーニュのグランクリュクラス30hl/ha 前後の収穫量が平均ということを考えると驚異的な少なさだ。醸造方法は至って自然派。「私は昔から農家であったから、栽培のプロではあってもワイン作りはまだまだ素人」と謙遜するアン・マリーは、自分がエノロジストでなく醸造の素人だったからこそ昔ながらの作り方、自然派のワインに抵抗無く耳を傾けることができたと現在を振り返る。自然酵母、ノンフィルター、SO2 ゼロ(白は必要があればごく少量)添加で奇跡のワインをつくり出す。
草花との共存バランスを考え、土起こしを一切しない。ブドウ畑に散布するものはイラクサ等畑のまわりに生えている野生のハーブを煎じたものだけで、ボルドー液すら「畑には害」と撒くことはない・・・それでいて、ブドウの病気にありがちなオイディオム等の病気がほとんど見られないという。「長年無農薬の農業を行ってきた経験上、いかに自然環境の調和を注意深く観察し、人の手を加えるのを最小限するかが重要で、システマティックに人の手を畑に介入することはナンセンス。」とアン・マリーは言う。彼女の畑が幸い、他に隣接する畑が無く完全に単一であること、風通しがよいことなどが功を奏しているのだろうか・・・とにかく、話を聞けば聞くほど狐につままれたような気分になった。
醸造にしても然り、赤はもちろん白の天然甘口ワインでさえ年によっては亜硫酸を全く添加しないという徹底ぶり。「リスクはないのか?」と聞いてみたところ、彼女は「リスクがあるから毎日毎日観察しているんでしょう?観察を怠るからしかるべきタイミングを逃して、やむ得ず人の手を加えなければならないんでしょ?」と質問した私が逆に諭されてしまった。だが、このようにさらりと言いのける彼女にも、裏では見えない地道な努力があり、その事が彼女の根拠付けとなっているようだ。
4.5haの畑を購入して以来365日、雨の日も雪の日も休まず畑に出、収穫時はほとんどカーヴで生活し、家に帰るのは寝る時だけという生活を送り続けているという。現在の農法に確信を持つ以前は、やはり普通のビオディナミ生産者同様、土起こし、ボルドー液散布等、試行錯誤を繰返し、徐々に必要としないものを削っていった結果現在の独自のやり方に至ったようだ。
「まずは、理屈は抜きに飲んでみなさい。」疑心暗鬼な表情でしつこく質問をする私に呆れたのか、彼女は話を切り、笑いながらワインをグラスに注いでくれた。抽象的な説明にはぐらかされたようで気分心外だった・・・が、最初に口にした赤に思わず鳥肌が立った・・・やわらかくスッと口に入る・・・おいしい。
「何も特別なことはしていない。しなくてもブドウにきちんと耳を傾けるとこのようなワインができるんだよ。」と彼女はウィンクした。自然を観察すること・・・彼女のビオディナミ農法を学びに、遠方からはるばる視察に訪れるワイン生産者たちが後を絶たないが、彼女は彼らにも「自然を観察すること」の重要性しか説かないそうだ。「マジックではない。何がどの時点で必要かは、観察することでよく見えてくる。」彼女に本やマニュアルではないビオディナミの原点を垣間見た。