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トマ・ルアネ
Thomas Rouanet トマ・ルアネ
灼熱の地、土の中の涼しさから生まれるフィネス
乾いた蝉の声、突き刺すような日差しの強さ。夏の気温は40度にも達する勢いで、乾燥した空気が喉を焼きます。この過酷な環境にあってもみずみずしく果汁を蓄え、近づくとフレッシュな芳香を放つブドウの樹々たち。周囲に生えた野生のハーブたちとの香りとも混ざりあい、南フランスの畑に来たことを身体に刻み込むように感じることとなります。ここは、ラングドック地方のサン シニアン地区。アルコールが高く、果実味の凝縮した力強いタイプのワインが生まれるとされる地域です。この周辺地域で偉大な生産者としてまず名前が挙がるのはフォジェールのレオン バラル。アルコール度数が高く鈍重な味わいという従来のラングドックワインのイメージを打ち破り、凝縮感の中にもしなやかさとフレッシュさを備えたワインという新境地に達した開拓者です。そのレオン バラルに薫陶を受けてサン シニアンの地でワイン造りを始めたのが、若き才能ヤニック ペルティエ。素朴ながらも熟した果実の旨みがあり、エキゾチックなスパイスの風味がオリエンタルな雰囲気を感じさせてくれる上質なワインの造り手です。「開拓者の後には道ができる」と言う事でしょうか。このサン シニアンの地にさらなる才能が登場しました。2013年の時点で27歳という若さのトマ ルアネその人です。2011年からヤニック ペルティエのところで働き始めた彼は、仕事の傍ら祖父から譲り受けた畑を耕し、ヤニックの醸造所を借りて2012年にはじめて自身のワインを仕込みました。この時点では、たった1種類だけのワインですが、レオン バラル、ヤニック ペルティエというこの地域の先達の良い点を吸収した上で、彼自身の個性、彼の自身のスタイルをしっかりと表現しています。
トマ ルアネが手がけるワインの最大の特徴は、その質感。密度があって、どこまでもしなやか飲み心地は、品の良さと繊細さをしっかりと感じさせてくれ、乾ききったこの地域の夏からは想像できないほどみずみずしい味わいです。その背景には、彼が祖父から引き継いだ畑が、1980年代から継続してビオロジックによる栽培が行われており状態が非常に良いこと、またブドウの樹齢にも恵まれているといったことが挙げられます。そして、その畑をトマの繊細な感性を持って丁寧に手入れし、凝縮感となめらかな質感を備えた特別なワインを生みだすブドウを収穫しています。
畑での作業では、特に「土の中の涼しさ」を意識しているというトマ ルアネ。地上が乾燥し高温になっていたとしてもちゃんと手入れされた畑の土の中は、そこまで高温にはならないと言います。加えて、ブドウ樹がしっかりと地中深くまで根を張っていれば得られるブドウはエレガントさ溢れるものとなります。樹齢の高いブドウ樹達を可能な限り健全に育てていくためと、株元などを丁寧に手作業で手入れする姿からは、彼の実直で繊細な人柄を感じる取ることができます。
醸造においても、トマ ルアネは「果実のフレッシュさ」を徹底的に意識します。その方向感はレオン バラルやヤニック ペルティエは勿論のことながら、ジュラのジャン フランソワ ガヌヴァ、ボジョレーのイヴォン メトラといったフィネス溢れるワインの造り手の表現を目指しています。
重厚で偉大なワインよりも、身体が「飲みたいという欲求」にかられるようなワインが理想と話すトマ ルアネ。今後の進化が楽しみな若手生産者の登場です。